2020
06.22

雇用調整助成金 – もらえる助成額も申請時の工夫次第??

雇用調整助成金。オンラインシステムの不具合は5月20日のオンライン稼働初日で躓き、6月5日にようやく再稼働したものの、1時間ほどで不具合が見つかり再度利用停止となり本日現在、オンラインは全く動かず“オフライン”が続いています。
とはいえ、休業や事業の縮小を余儀なくされた企業にとっては、雇用調整助成金が助成額を考えると最も頼りになる存在と言えます。
6月21日現在、申請件数は218千件弱。対して行政側の処理済は136千件あまりと、6割を超える処理件数となっています。全国のハローワーク窓口はずいぶんと頑張っていると思います。これまでに決定された支給総額は930億円に届くかの勢いです。

さてこの雇用調整助成金。そもそも日本全国の数多ある企業が「今すぐ助けてくれ!」という切迫した事態を想定して準備された制度ではありませんでした。ところが、1月24日に「中国からの観光客の激減に困った観光業等を支援するためにはこの助成金を使う」と決めてしまいました。その後、新型コロナウウイルスの感染が日本全国に拡大し、観光業のみならずほとんどの産業がコロナの影響を受けるまでになりましたが、1月24日の決定に縛られたため雇用調整助成金を使うという方針が見直される事はありませんでした。元々使い勝手の悪い雇用調整助成金ですから、その後、何度も何度も改定しなければならない羽目に陥りました。その結果が現在に至るという事情です。

さて、雇用調整助成金とはそもそもどんな助成なのでしょうか? 景気が悪くなって売り上げも急減、このままではつぶれそうだ!!という場面でも、社員を解雇せず休業に留め雇用を守った企業に対して、企業が社員に支払った休業手当を助成する制度のように考えている人が多いのではないですか? たぶん、安倍総理などはそのように考えているのではないでしょうか? 雇用調整助成金が、企業が支払った休業手当に応じて助成される仕組みが導入されたのは、6月12日からです。しかも、この仕組みは社員数がおおむね20人以下と言われる小規模事業者向けの特別措置なのです。

それでは、小規模事業者以外の企業が申請する雇用調整助成金は一体何に対して助成してくれるのでしょうか? ここからマニアックな議論となりますが、辛抱して付いてきてください。雇用調整助成金とは、企業が実際に社員に支払った休業手当ではなく、一定の式の下で計算される社員一人当たりの賃金額に、その企業が労使協定等で定めた休業手当の支払い率を乗じた金額を休業手当とみなして、それに企業規模や解雇の有無から求められる助成率を乗じた金額を助成するという仕組みです。複雑怪奇な文章だと思いますが、要は一人当たりの賃金額と休業手当の支払い率で算定されるとご理解いただければ良いと思います。

実は、この一人当たりの賃金額の算出方法が、改定に次ぐ改定の結果何通りも出てきてしまいました。そのどれもが正解ですので少し手間ですが、すべてのパターンで試算しその会社にとって一番有利なパターンを選ぶことが、企業にとってはベストの対処方法です。
詳しく見てみましょう。

もともと、一人当たりの賃金額を算定するものは、前年度「労働保険料確定申告書」の「確定保険料算定内訳欄(雇用保険分)ハ「雇用保険法適用者分」」に記載している賃金総額でした。この“前年度”も実は、ややこしい事態を招いています。今回の新型コロナウイルスの影響で、労働保険料の確定申告期限が今年は特別に8月31日までに延長されました。従来通りの申告でも構いません。これは、一人当たり賃金額算定の根拠となる“前年度”について、一昨年度分とするか、昨年度する分とするかを、今回の労働保険の確定申告のタイミングで選ぶことができるという事です。

さらに、コロナ特例で、一人当たり賃金は「当年度又は前年度の任意の月に提出した給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書に記載された俸給給料等(01)欄の「支給額」を賃金総額として、同欄の「人員」を当該1か月平均被保険者数として」求める事もできるようになりました。

実は、労働保険の賃金総額には労働者身分ではない役員の報酬は含まれませんが、所得税徴収高計算書には含まれます。ましてや、この「所得税・・・」は、当年度・前年度の任意の“月“ですので、もちろんその月の役員を含んだ社員数にもよりますが、一人当たりの賃金額が一番高いところを選択すると、もらえる助成額の最大化に繋がります。

勘違いしないでいただきたいのは、ここで説明しているのは、厚労省の助成金マニュアルに従った合法な手続きの解説であり、ごまかして助成金を受け取ろうとする不正受給ごときに繋がるものでは一切ないという事です。「ちょっとした事で政府からもらえる助成金額が変わるのですよ」という雇用調整助成金の特徴をお知らせしたかっただけなのです。

度重なる改定の結果、複雑怪奇、妙ちくりんな仕組みになった“醜い助成金”が抱える“膿”の一部をご紹介してみました。

ではなぜ今頃こんな情報を発信したのかと言えば、雇用調整助成金の上限額が8,330円から15,000円に大幅に引き上げられたからです。従来の上限額であれば、労働保険料の確定であろうが所得税であろうが、ほとんどは上限8,330円に張り付く事例だったため、どちらでも手続きが簡単な方で良かろうと考えていましたが、突然この上限額が大幅に引き上げられました。その影響で、申請時の工夫一つで助成額が変わる現象が出現しました。

以  上

注:筆者の拠点PMPでも新型コロナウイルスに関し、かなりの頻度でニュースレターを発信しています(https://www.pmp.co.jp/pmpnews/)。

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慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。
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