2020
05.20

雇用調整助成金の特例の怪。

雇用調整助成金。新型コロナウイルスの影響で事業の縮小を余儀なくされ、緊急事態宣言以降は、都道府県からの営業自粛要請(といっても大半は黙って従っているように思えます)により一層経営がひっ迫している中で、何とか社員の雇用を守ろうと頑張っておられる社長さんにとっては、休業手当に対する国からの助成は大変ありがたい制度であると思います。

ただし、大層評判が悪いですね。この助成金は。
1.いったん会社が休業手当を支払った後の助成であるため、休業手当の資金立て替え負担が大きく、助成金の支給が遅れると資金繰りがひっ迫する恐れがある事。
2.申請手続きがやたらと複雑であること。確かにもともとの仕組みは、事前計画に6種類、計画の承認を受けて休業を行った後の支給申請で6種類の書類作成が必要でした。これを段階的に緩和され、5月19日現在、計画届は不要となり、申請時に9種類の書類作成に大幅に簡素化(厚労省はこう言っています!?)されました。
3.一人当たりの助成金の上限額が8,330円、1か月20営業日休業させた場合、166,600円の助成しか受けられない事。大卒新人の初任給ですら今は20万円を超えますので、これは低すぎますね。上限額を引上げようとしていますが、これには別途予算措置が必要ですので、6月の第二次補正予算の審議待ちだと思います。

まあこのあたりがマスコミ指摘の問題点だと思いますが、この雇用調整助成金、まだまだ奥が深い!!と言えます。

この評判の悪い助成額上限の8,330円ですが、これは雇用保険の基本手当日額(簡単に言うと失業保険の1日あたりの受給額)の上限額です。実は3月1日に8,335円から8,330円に引き下げられています。今はこれを使っています。
仮に、助成金の上限額が引き上げられると、失業保険はどうなるのでしょうね。ひょっとすると、失業保険は見直されないかもしれません。そうなると、新型コロナ不況で解雇される場合は8,330円ですが、休業の場合15,000円(と言われています)となります。バランスは大丈夫ですか?もっとも、助成金は会社に一括入金されますが、失業保険は被保険者個人が受給するもので、この金額の違いはあまり認識される事はないかもしれません。
さて、野党や公明党、自民党の一部から助成金は時間がかかりすぎるので、国民に直接支給すると言う“みなし失業扱い”のアイデアが出ています。安倍さんも乗り気のようです。
これは、過去3.11の東北震災の際や、昨年の台風被害のような大規模な自然災害の際に、みなし失業扱いが適用されています。企業に離職証明書の形式を踏襲した休業証明書を発行させ、これにより社員が直接ハローワークで基本手当の受給手続きを行うというものです。激甚災害法の改正により、新型コロナウイルスを適用対象とすれば可能となります。
そうなると、休業者をみなし失業扱いとするとハローワークで15,000円支給されるが、本当の失業者は8,330円が上限額という可能性もありますね。このバランス、大丈夫ですか??

次に、厚労省のドタバタぶりはこの雇用調整助成金の変更履歴からも明らかです。PMPがフォローしている限りでも新型コロナウイルス特別対応措置としての助成金の変更は、2月14日に始まり、2月28日、4月13日、25日、5月6日、7日、19日と合計7回もの変更を行っています。PMPは毎日、厚労省の変更を事細かにフォローしていますが、経営者の皆さんは、これと同じこと人事に求めないでください。大変ですから。
またマイナーで役人にとっては大切かもしれませんが、企業人事からすれば関係のない変更もかなり含まれています。
もっとも、企業で助成金の申請を行う方は、うっかり厚労省の古い情報をもとに手続きなどされないように気を付けてください。不要な書類を作成したり—という時間お無駄も考えられます。ご用心ご用心。そんな時にはPMPにご連絡ください。

中でも4月13日に発表された変更は特別に4月1日から6月30日までの緊急対応期間に限る措置となっています。これは3月以前の休業の助成金の申請とは手続きが異なる事を意味します。感染拡大を防ぐため3月辺りから早めの休業措置をとった会社は、3月以前と4月以降という二通りの異なる申請手続き書類を準備しなければなりません。

実は我々社労士は、今回の雇用調整助成金の受託に消極的であると言われています。こういう時にこそ社労士は活躍すべきなのですが、特に雇用調整助成金には腰が引けている社労士仲間も散見されます。すみません。でもこれはある意味仕方がない事態でもあります。社労士連帯責任です。この助成金、手続きが複雑である事に加えて、必要な法定書類の添付を求められます。休業に追い込まれた外食・サービスなどの小規模企業の多くは、そのような法定書類までの準備されていない事は珍しくありません。そんな中、社労士が受任した場合、後から企業の申請書類に偽りがあるなどと言われ連帯責任が課されるリスクがあります。
また、元々複雑な助成金手続きが前掲のような変更に次ぐ変更が加わり、行政の認識の違いなども顕在化しています。例えば、申請期限の解釈。手続書類を郵送する場合、東京は書類必着、神奈川では消印有効という回答がありました。こうなると社労士は怖くて助成金には逃げ腰になります。
来月の国会で社労士の連帯責任を特例的に解除する方向で検討に入ったといわれていますので、そのうちに解決するかもしれません。でもこんなスピード感で良いのでしょうか?

厚労省は手続事務の簡素化のため、オンラインシステムの稼働を決めました。便利で速いオンラインの活用を呼び掛けています。もっとも国民一人10万円の給付金手続きのマイナンバーカードを使ったオンライン申請のドタバタの悲喜劇のバカバカしさを知ってしまった我々は、本当に大丈夫だろうか?という疑いは払しょくされません。
また一部ではすでに、申請書類を直接行政に持ち込めば、その場で手続きのミスの指摘をしてもらえるためすぐに修正できるが、オンラインだと申請後待たされた挙句に、書類にミスがあるので一発アウトです、という結果報告となりかねないという社労士の声があります。行政から指摘された事項を修正しても再申請の扱い。要は申請手続きの列に並びなおすことになってしまう。結局、アナログな申請書類の持ち込みのほうが安心で速いかもしれないという声もあります。10万円の給付金もそうなっていますね。
今でもハローワークの雇用調整助成金窓口は「ちょっと質問があります」という人が朝の8時30分前から長い行列を作り、3密状態となっています。

そして最後に、ここに来て、5月19日付で、小規模事業主用に、雇用調整助成金の手続きをさらに簡素化した件。小規模事業主は3種類の支給申請書と4種類の添付書類、合計7種類の書類を用意すれば良いことになりました。一般企業が用意する書類は9種類なので2種類も!?書類作成が不要と簡素化????されたという厚労省発表です。
妙なのは、小規模事業主の定義。厚労省は「従業員が概ね20人以下」の会社や個人事業主を対象と定義しています。“概ね”20人とはいったい何人なのでしょうか? 社員数が21人はOKだが24人はNGなのですか? 改めて6回ほどTryして行政に問いただしました。「20人台であれば29人でもOKです」との事です。だったら最初からそう書いてくれませんか!!!
緊急対応で行政も混乱しているのはわかりますが、国民や企業の戸惑いはできるだけなくして欲しいものだと思います。

以 上

P.S. 助成金オンラインシステム、20日12時スタートだったはずですが、早くも(20日13時現在)不具合で運用開始が延期になりました。

注:筆者の拠点PMPでも新型コロナウイルスに関し、かなりの頻度でニュースレターを発信しています(https://www.pmp.co.jp/pmpnews/)。

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慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。
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