07.15
男女の賃金格差の公表義務のスタート。これで男女間の賃金格差が解消されるのでしょうか?
7月8日、偶々、安倍元総理が凶弾に倒れた日ですが・・・。
厚生労働省は省令の改正を公表し、社員数301人以上の企業に対して、7月8日以降に終了する会計年度末から概ね3か月以内に、その会社の社員の男女賃金格差の公表を義務付けました。具体的にはその会社の男性の賃金水準を100とすれば、女性の賃金水準がどの程度の数値になるのかを公表しなければならないとされています。
厚生労働省令の改正、男女賃金格差の公表を義務付ける意図は明確です。報道によれば世界経済フォーラムが公表した男女の性差によって生まれる不平等や格差を示すジェンダーギャップ指数も、日本はOECD146か国中119位と各段に低い状況が続いています。
G7でも、ドイツ10位、フランス15位、アメリカ27位、G7の中で6番目のイタリアは63位。来年の広島G7のテーブル上で女性活躍が話題となれば、その時の日本の総理はさぞかし気まずい思いをするのだろうと思います。
さて今回の男女賃金格差の公表は、政府が企業に対して、女性の賃金水準の引き上げ、これには、例えば一層の経営職層や管理職層への女性登用や女性パートタイマーの正社員登用などを促進させ、結果として女性の賃金水準の引き上げを狙っているものです。
女性活躍を促進する一環としては頷けるものではありますが、男女の賃金格差を論ずる場合は、日本の特殊な税制の見直しは避けてはならないもののはずです。しかしながら厚生労働省 ☞ 内閣、自民党はこの問題には、今回全く触れていません。
それは配偶者控除と特別配偶者控除、これら税務上の配偶者の特別な控除制度です。
このような面倒な表現をせずとも、多くの読者諸氏は、社員の奥さんが結婚後子育てなどをしながら働く場合、この税務上の控除の仕組みを念頭に置いて、配偶者控除のボーダーである年間給与103万円とか配偶者特別控除のボーダーである年収133万円を意識するという事は、すでに常識としてご存じだと思います。
行政官からは、これは“配偶者”控除であって、“女性(妻)”控除ではないという、バカバカしい屁理屈を聞いた事がありますが、日本独自のこの“女性(妻)”控除の仕組みが、結婚後の多くの女性の自由な働き方の壁となっている事は、だれでもよく知っているはずです。
年金の第3号という、これも日本独特の仕組も同じような“効果”を上げています。国民年金第3号被保険者とは、例えばサラリーマンのように厚生年金に加入する者に扶養されている配偶者で年収が130万円未満の場合は第3号被保険者となり、年金保険料を支払う必要はありません。これも“配偶者”の大きなメリットですね。
今回の政府の決定は、これらについては抜本的な見直しは何もせずに、企業に男女の賃金格差の解消の責任を押し付けるとしか思えません。
下衆の勘ぐりでしょうか?
今回の男女別賃金格差の公表は、女性活躍推進法の省令の改正により301人以上の企業に義務付けられることになりますが、厚生労働省令の改正は厚生労働大臣が決定できるのです。
改正内容は単純なもので、従来からの女性活躍推進法の一環で企業に義務付けていた「 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する8項目(企業はその内の1項目の数値の公表が義務付けらています)に男女賃金格差という一つの項目を追加したにすぎません。
それが、5月20日に岸田総理がトップダウンで今回の件を決定したにもかかわらず、6月16日通常国会終了後、参議院選挙の行方がほぼ決まった7月8日まで遅らせた理由は何だったのでしょうか?
筆者には素朴な疑問として残されています。
以 上
鈴木雅一(すずきまさかず)
最新記事 by 鈴木雅一(すずきまさかず) (全て見る)
- 更新:『ハマの労務コンサル短信』(月刊 人事マネジメント) 第21回記事をアップしました - 2024年11月5日
- 「育児休業法」を振り返って - 2022年12月1日
- Postコロナの日本人の働き方?? - 2022年11月15日