2022
03.23

改めて労働基準法を考える

このところ、所謂労働側から、労働基準法が改悪されているという貴重な意見表明が相次いでいるように感じています。

筆者も、最近の労働基準法の改正内容については、彼らとは別の視点からですが首を傾げる事が多いという印象を持ってはいます。
しかしながら、企業人事の方々のみならず、経営者にとっても労働基準法は把握すべき重要な法律の一つのように思えます。

労働基準法、施行が間近に迫っていた日本国憲法第27条の趣旨及び当時の労働情勢を鑑み、第92回帝国議会に法案提出。議会での協賛を経て1947年(昭和22年)28日裁可、同年4月7日公布、一部の規定を除き同年9月1日施行されたものです。
ご存じのように、民法では雇用についても契約の当事者間対応原則で定められていますが、使用者に比較すれば相対的に弱い立場である労働者を保護するために、労働基準法は制定されました。この労働基準法の理念は今も尊重されるべき、大切な原理原則です。
その上で、労働基準法制定当時と現在の日本を比較してみましょう。

下表は、総務省統計局や厚生労働省などの色々なデータをかき集めたものですが、項目によっては「昭和22年」から数年ずれるものもあり、「現在」のデータも最新とはいえ、複数年にまたがるデータとなっています。その意味では正確なデータではない事を予めご了承ください。出展も記載していません。

とは言え、労働基準法が制定された当時と現在の、労働基準法が対象とする労働者像がずいぶんと変わったものだと思われてなりません。

1.当時は、労働基準法対象の雇用者は、働く日本人の中の4割弱でしかなかった。自営業者が多かったようだ。

2.当時は労働基準法対象の雇用者の大半は製造業関連であるらしい。少なくとも雇用者の8割近くが非製造業である現在とは異なる様相であることは確かのようだ。

3.時間当たりの労働生産性は特に非製造業では、個人差があるため、短時間で大きな成果を上げる人もいれば、長い時間働いても成果が乏しい事がある事は経験則で誰もが知っている。

4.時間当たりの労働生産性は、同一人物内であっても、日によって、あるいは時間帯によって、またはその時のその人の状況によって差があることは経験則から誰もが知っている。

5.相対的に弱い立場を守るべき存在として、当時は労働組合が中心的役割を果たしていた。現在の労働組合組織率はわずか16%。そのため、労働者を守る役割を果たす労働法としては、現在は労働組合法よりも労働基準法が重要となっている。

労働基準法、現在これほど重要な法律となっているにもかかわらず、現実とは全く異なる労働事情を前提に制定されたものとなっています。

その後、数えきれないほど繰り返された労働基準法の改正は、時と共に変化する時代の要請に応えようとするものでしたが、出発点の法体系が昭和22年の時代を反映させたものであるため、木に竹を接ぐような不格好な改正が相次ぎ、法体系としてもいびつなものとなり果てています。

抜本的な改正が求められているように思います。

以    上

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鈴木雅一(すずきまさかず)

代表取締役・特定社会保険労務士ピー・エム・ピー株式会社
慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。