2019
11.28

同一労働同一賃金 実際のLegal Riskを予想してみました

2020年4月から施行される改正パートタイム・有期雇用労働法では、同法違反した場合に都道府県の各労働局が事業主に対して助言指導を行う(同法第18条)とされています。これまでは労働契約法による裁判以外には同一労働同一賃金違反の決着を付ける手段はありませんでした。来年4月からは裁判に加えて行政の助言指導や行政ADRという法のリスクが加わります。Legal Riskが高まるのであれば、今のうちに契約社員の待遇を見直そうという企業は少なくありません。

このリスクの実際を予想してみました。

PMPのニュースレターで詳しく解説しましたが、同一労働同一賃金の具体的対応について詳細記載されているガイドラインは、文字通り“ガイドライン”でしかなく、ガイドラインで不合理であるとされている事例でさえ、各企業の考え方によっては不合理ではないとされる可能性もあるというのが厚労省の見解です。ガイドラインに関する厚労省の告示(平成30年12月28日)にはガイドラインの説明を「不合理と認められる可能性がある」(太字は筆者)ものとしています。何でも行政文書で“等”がつくのは実質骨抜きを狙うとか。そうなるとこの文書は“等”に加えて“可能性”までが付け加わっています。

ガイドラインを見ると、手当や福利厚生など、具体事例を挙げて同一労働同一賃金の観点で問題とならないか、問題となるかと言う説明を単純明快にしています。明快であるが故に、ガイドライン各論が独り歩きしている様に思えます。最初に「そもそもガイドラインとはどのような役割なのか」という前提を踏まえてからガイドラインを参考にしつつ、自社の同一労働同一賃金の考え方を整理して、手当や各種福利厚生などの細かい検討に着手すべきでしょう。

厚労省通達 基発0130第1号(https://www.mhlw.go.jp/content/000475886.pdf)の第3の3の(8)によれば、裁判となった場合、労働者側は「待遇の相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実を立証する責任を負う」としています。強力な労働組合でもあれば別ですが、一人の労働者が十分な立証を行う事ができるでしょうか? これは結構ハードルが高いものと思います。ちなみに、ヨーロッパでは労働者には立証責任を負わせてはいないようです。一方で使用者側ですが、通達では「不合理であるとの評価を妨げる事実」を立証することになっています。要は、「この差が合理的である」という立証はできなくとも、「この差は不合理とまでは言えない」程度の立証でも良さそうです。

Legal Riskは実際には(少なくとも法施行直後は)それほど心配するほどではないように思います。そうであれば、パートタイム・有期雇用労働法施行を良い機会として、パートタイム・有期雇用社員に限定せずに、正社員や5年経過後に無期転換したフルタイム契約社員(今回の法の対象から外れる社員となります)も含めたすべての雇用区分の社員に対しての処遇条件について、十分に合理的な説明ができるかを改めて見直してみたら良いだろうと思います。

注:筆者の拠点PMPでも同一労働同一賃金について、ニュースレターを発信しています(https://www.pmp.co.jp/pmpnews/)。

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鈴木雅一(すずきまさかず)

代表取締役・特定社会保険労務士ピー・エム・ピー株式会社
慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。