2020
08.26

かつて日本は世界一給料の高い国だった – 今は昔の物語 –

新型コロナウイルスは相変わらず収束には程遠い状況が続いています。
4月~6月のGDP、年率換算で-27.8%という数値に驚かれた方も多いと思います。
時期を同じくして、厚生労働省より「令和2年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」が発表されました。これによると、2020年の賃金の上昇率が2%という結果でした。
振り返ると、もう随分長い間、賃金の毎年のアップ率は2%を相前後する実績が続いています。この機会に1965年以降、55年間の毎年の賃金のアップ率のトレンドを纏めてみました。以下のグラフとなります。

1995年(2.83%)から25年の長きにわたって、日本の賃金アップ率は3%に満たない水準が続いています。これはせいぜい月額で6,000円から9,000円程度の賃金アップが毎年続いていることになります。
一人のサラリーマン人生に置き換えれば、長年勤めあげて今年定年の60歳を迎える方は、35歳の働き盛りのころから60歳の定年までの間、低水準の賃金アップ率の中で我慢し続けた事になります。もちろんその中でもお一人お一人は昇格昇給を積み重ねて、個人的にはもっと大きな賃金アップを勝ち取られてきたのだろうと思いますが、賃金総額でいえば、長く低迷が続いた日本経済の下で低いアップ率が続いていました。

さて諸外国の賃金推移はどういう変化だったのでしょうか?
上記は1997年から2016年まで主要先進諸国と日本の実質賃金の推移(出典はJETRO)をグラフで示しています。1997年は前ページのグラフで示した3%を割り込む低い賃金アップ率の傾向が始まった1995年とほぼ時期を同じくしています。
このデータは、実質賃金、前ページのデータは名目賃金という違いはありますものの、先進諸国の中で日本の一人負けが明らかであると思います。

筆者は若いころ、オーストラリアに3年ほど駐在した経験があります。また現在のPMPという筆者が率いるコンサルティングファームでは、ネイティブのコンサルタントとして日本語も堪能なオーストラリア人コンサルタントが活躍していますし、PMPの優秀なコンサルタントの一人はオーストラリアのシドニーに住んでいます。
当然ですが,就労に際しては全日を在宅勤務としています。

そんな事もあり、オーストラリアは筆者には身近な外国の一つで、今も毎年のようにオーストラリア各地を訪れています。
そんな筆者がオーストラリアを訪れて強く感じるのは、1.オーストラリア人の着る普段着が高級となった事 2.レストランの一食当たりの金額が高くなった事 3.パブの立ち飲みのビール一杯の値段が高くなった事 等々、自然の豊かさや人懐っこいオージーの国民性は変わっていませんが、筆者の財布に優しかった国が、財布に厳しい国に変わってきました。上記のグラフから、1997年から2016年までの実質賃金はオーストラリアが31.8%アップしているのに対して、日本は10.3%ダウンしています。国内の物価も同様に、オーストラリアはアップ、対して日本は長らくデフレが続いていました。筆者の実感を裏付けるものです。

最後に、やはりJETROが発表しているアジア各国との賃金比較データを以下のようにグラフにしてみました。日本(この場合は横浜)の賃金水準を100とした場合の、アジア各国の主要都市の賃金水準を示したものです。JETROのデータは色々職種別で示されていましたが、非製造業の管理職(課長相当)の賃金データをピックアップしています。
これを見て、どう思われますか?
アジアではまだまだ日本は優位にあると安心されますか?

日本は1995年以降、25年間低い賃金アップ率が続いています。今の国政の対応、日本市場をけん引する大手企業の動向を見ても、この低い賃金アップ率の状況がそうそう簡単に解消されるとは到底思えません。そうであれば、賃金がまだ比較的高いこのタイミングで大至急、アジア各国との人材交流の仕組みを構築して、アジア各国の優秀な人材が日本を目指すような環境を整えなければならない。残された時間は少ない。
そのように思います。

以 上

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鈴木雅一(すずきまさかず)

代表取締役・特定社会保険労務士ピー・エム・ピー株式会社
慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。