2020
04.21

新型コロナウイルス:何を言いたいのか?厚労省!!

今月上旬に都内のタクシー会社ロイヤルリムジン社が、当グループの社員600人を一斉解雇したとの報道がありました。休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断したとの社長説明でした。

それを意識してか、厚生労働省は、新型コロナウイルスに関する企業向けQ&Aの中で「タクシー事業者ですが、乗客が減少して苦境にあります。雇用調整助成金をもらって運転者の雇用を維持するのでは なく、運転者を一旦解雇して失業手当を受給してもらい、需要が見込めるようになったら再雇用することを考えています。」との質問項目を設けて、説明しようとしています。

この中で<従業員が受けられる手当>として以下のような解説をしています。
(厚労省の発信)

〇雇用を維持して休業の場合:休業手当(「休業前3か月の平均賃金」を基礎として算定)
解雇の場合:雇用保険の基本手当(「離職前6か月の平均賃金」を基礎として算定)
例)平均月収30万円の60歳の運転者の直近2か月の月収が漸減(25万円、20万円)
・休業手当:休業前3か月の平均賃金(25万円)×60%以上= 15万円以上??
 ・雇用保険の基本手当:離職前6か月の平均賃金(27.5万円)×約53%=145,750円

厚労省の発信はここで止まっていますが、この単純な式をそのまま計算すると
 ・休業手当:(25万円)×60%以上= 150,000円以上??
 ・雇用保険の基本手当:(27.5万円)×約53%=145,750円
とでも言いたいのでしょうか?

そうだとすれば、これは大ウソです。

正しくは
〇 休業手当は  (30万円+25万円+20万円)÷90日×6割× 21日=105,000円 〇 基本手当は 27.5万円÷30×53%×30日=145,750円
  待機期間7日あるとしても27.5万円÷30日×53%×(30日―7日)=111,741円 
となり、ロイヤルリムジン社長の言う通り、社員からみても、解雇してハローワークで失業保険をもらった方が社員には有利です。

巷間では、弁護士が、ロイヤルリムジンは、労基法で定める解雇予告手当の支払いを行っていないようだ。この点が違法行為だという指摘をしています。
またロイヤルリムジン社長が業況が回復したら再雇用するという社員向け説明を取り上げて、これは厳密な意味では失業状態とは言えないという意見もあります。
それらの指摘は、筆者もそういう意見も認めるものですが、本質は、そもそも労基法で算出される休業手当の最低水準が低すぎるところが問題であり、そこを改めずして、これを前提に休業による雇用維持を求める政府の姿勢を問いただすべきと考えます。

以 上

注:筆者の拠点PMPでも新型コロナウイルスに関し、かなりの頻度でニュースレターを発信しています(https://www.pmp.co.jp/pmpnews/)。

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鈴木雅一(すずきまさかず)

代表取締役・特定社会保険労務士ピー・エム・ピー株式会社
慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。