2019
12.20

帰宅メールで残業代

2019年2月の大阪地裁で、残業代の未払いについての争いがありました。その際、問題となったのは具体的な労働時間の算定について。 偶々訴え出た社員の奥さまが旦那さんの帰宅時間を手帳に記録していました。しかしながら、この記録の多くが手書きでなされており、その記録された時刻について社員である旦那さんの確認もないことから、実労働時間の認定に用いるだけの信用性があるとは言えないと結論付けられました。

一方で、この社員は終業後、帰宅のための自動車に乗るまでのごく短時間に奥さまに帰宅時間を知らせるメールを送信していました。裁判官は社員から奥さま宛の帰宅メールの内容を踏まえれば、このメールは虚偽の終業時刻を記録する意図で送信されたものとみる事はできないと判断し、さらにメールの送信時刻は人為的に操作を加える事ができないという事を照らし合わせると、奥さま宛の帰宅メールの送信時刻は終業時刻認定の根拠として十分信用できると結論付けました。

筆者も出張などで遅くなった時は、LINEで「これから帰ります」と送る事がよくあります。帰るコールであれば録音でもしない限りは労働時間の推定の根拠にはならないようですが、ショートメールやLINEであれば、、、という事です。 こんな判例が蓄積されてくると、この先一体どうなっていくのか心配になります。 

労働安全衛生法の観点から過重労働を回避するため労働時間をチェックしようという考えには賛成ですが、日本ではこれが労働基準法の残業代の未払い問題に繋がってきます。

残業代も給料の一部、労働の対価ですね。労働の対価とは? 雇用契約は労働者側の指揮命令下で就労する義務と使用者側の就労の対価としての報酬の支払い義務から成り立ちます。労働の対価=報酬とは、労働時間で算定されるものではなく、就労する事、すなわち実現した一定の成果とその成果を実現するまでの一人一人の工程、この二つに対する評価から算定されるべきだと思います。残業代とて報酬の一部ですので、例外ではないように思うのですが、日本の労基法はこんな考え方を許してはくれません。成果をあげなくても、途中の工程でさぼっていても、定時を過ぎて残業していれば法定以上の賃率で残業代を支給しなければなりません。残業代の算定には成果や途中工程は無関係です。仕事ができずに効率のよくない社員が無駄に残業することで、結果、残業しない高能力者を上回る月給を稼ぐ事態。日本の常識ですが、世界から見ると非常識です。昨今の厳しい労働時間の把握の傾向はこの非常識さに拍車をかけていると思います。日本が世界から見ると非常識な国になっていきます。

注:筆者の拠点PMPではニュースレターを発信しています https://www.pmp.co.jp/pmpnews/ 是非こちらもご覧ください

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慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。
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