2019
11.20

同一労働同一賃金に物申す

2018年6月29日、通常国会で働き方改革関連法が成立し、同一労働同一賃金についても、2020年4月から労働契約法「第20条」に代わって「短時間労働者及び有期労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム・有期雇用労働法」)が施行される事により一層促進されると言われています。また、併せて、派遣法も改正され、派遣労働者の同一労働同一賃金についても新たな規制が始まります。

労働契約法は民法ですので、これまで同一労働同一賃金問題については裁判以外に解決策はありませんでした。来年4月から労働契約法第20条に代わって動き出すパートタイム・有期雇用労働法では司法に加えて、行政(労働局)が会社を指導(正しくは助言・指導・勧告)する事ができます。勧告に従わないときは企業名の公表も可能となります。

社員からすれば、面倒な裁判に頼らずとも労働局に駆け込めば事態が改善される、例えば給料が上がるかもしれないと言う期待が持てるように思うでしょう。反面、企業にとっては、労働局からの呼び出しなどの面倒な事態が起こり得るかもしれないという事になります。そんな面倒事はご免だとばかりに、契約社員やパートタイマーの処遇を見直し、正社員の処遇に近づけようとする動きも今や珍しくありません。ちょっと待った。本当にこのような見直しを軽々しく行って宜しいのですか?警鐘を鳴らします。

振り返ってみると、2015年4月施行の改正労働契約法では、通算5年を超える有期雇用労働者に無期雇用契約への転換を事業主に申し入れる権利を与えました(事業主は有期労働者からのかかる申し入れを拒むことはできないとされているので、実際は5年を超えると必ず無期契約労働者になれるという事です)。同年9月30日は派遣法が改正され、3年を超える派遣労働者については、派遣会社での無期労働者に転換するか、派遣先で直接雇用されると言う仕組みが導入されました。更にここに来ての短期間・有期雇用者の同一労働同一賃金です。

法律と言う強制力により企業に対して契約社員や派遣社員の正社員化や待遇の改善を迫っているようです。立場の弱い契約社員や派遣社員―非正規労働者とも言いますーを法によって守ろうと言うのが言い分なのでしょう。弱者を法が守るという考え方は首肯できます。しかしながら、弱者救済は政府の役割であり、企業に押し付けられるものではありません。一連の労働法は、当事者間の合意形成と言う契約の原則や自由主義経済の原則を無視して、法と言う強制力で一方的に企業に責任を押し付けているように思えます。

同一労働同一賃金の対象となる非正規労働者は、企業からすればいざと言う時の労働力の調整弁となる存在と言う役割を担っています。日本はその労働法制の特殊性から特に正社員の解雇が不自由です。まず不可能であると認識されている企業経営者も多いはずです。景気の後退局面や企業の経営不振の際には、正社員の雇用を守るためには非正規の労働力を雇用の調整弁に使わざるを得ません。一連の労働判例でも解雇は極力回避すべきとしながらも、万一やむを得ない状況では正社員の解雇は最後となるべきであるという考え方が広く受け入れられています。これは、正社員の前に派遣社員や非正規社員の解雇を先行すべきであるとされています。別に非難されるものではなく企業にとって合理的行動であるとされています。

さらに展開すれば、企業にとっての労働力の調整弁である非正規社員と中核である正社員を比べれば、正社員を非正規社員よりも厚遇するという考え方も合理的であると言えます。自社が抱える労働力の中で正社員をより重要な存在として大切にしようとするという考え方は非難されるべきものではないと考えます。

資本主義社会にあっては自由な企業活動が保証されています。そこに法が強制力をかざして手を突っ込んでくる場合は歪みをもたらします。しかしながら歪みは何らかの方法により自然に矯正されます。それが摂理です。

要は、同一労働同一賃金に繋がる一連の労働法改正は、資本市場の原則に反している部分は有効には動かず、市場は必ず代替手段を生み出すと考えます。その意味では、来年4月から施行される同一労働同一賃金にしても、各企業にお願いしたいのは、表面的なCompliance議論に従って軽々にそれまで積み上げてきた人事制度を見直したりはせずに、各企業それぞれの立場で最も合理的な雇用区分構成と雇用区分ごとの処遇体系を考え出して頂きたいという事です。各企業で働くすべての社員に対して、それぞれに対する役割や期待を明らかにし、それを根拠に必ずしも同一の処遇にはならないという説明を堂々と展開する準備を整えてほしいと思います。もちろん、その経緯を通じて、どうしても説明できない部分がありそれが不合理であるとの結論となれば見直すことも必要になります。その際でも、その結果として人件費が跳ね上がり、企業の存続にマイナスの影響を与えるような事態に繋がるのであれば、正社員の処遇条件の見直し(いわゆる不利益変更)までも検討を行い、各企業にとってもっとも合理的な説明のできる結果を模索してほしいと思います。

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慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。
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