2021
06.03

コロナワクチンの職場接種狂騒曲

ようやく日本でもコロナワクチンの接種が拡大しつつあります。

欧米の先進事例を見ても、待ちに待ったワクチン接種です。予防接種法に定める市町村による接種に加えて、枠を超えた大規模接種の試みなどは、もっと評価されても良いように思います。

今、盛んに報道されているのは、職域でのワクチン接種ですが、筆者には徒に期待を煽っているかのように見えます。マスコミには法律の前提を踏まえた冷静な事実の発信を求めたいですね。その上で、マスコミが主導して、さらに弾力的なワクチン接種を目指して法律の改正や新しい厚労省通達等の工夫を提言するといった建設的な議論を巻き起こしてほしいと思います。

さて報道によれば、職域接種は下記3方法が想定されています。
① 産業医などが社内診療所で実施
② 外部の委託機関が会議室などで実施
③ 外部の提携先の医療機関で実施

特に上記の① 産業医による接種が盛んに報道されていますが、筆者には労働安全衛生法で選任の義務が生じる50人以上程度の企業規模で、月1回がせいぜいの訪問頻度でしかない嘱託産業医に職域の社員、はたまた家族全員の接種まで行わせるのは現実的とは思えません。
労働安全衛生法で専属の産業医を選任する義務のある1,000人以上の企業を職域接種の候補とする方がまだ現実的だと思います。
もっとも普通は企業には診療所登録(医療機関登録)などはありません。従って、産業医は医師ではあっても医療行為であるワクチン接種を実施する事は許されてはいません。
結局は、職場内に診療所を有しそこに産業医が常駐し医療行為を行っているという稀なケースや、企業に医療機関が出張するという、毎年の定期健康診断方式でないと、現行法の下では職域のワクチン接種は難しいという事になるかと思います。
また、マスコミは「職域接種は大企業、更には“上級国民”(不愉快なマスコミ造語ですね。社会の分断を煽りたいのでしょうか?)が主体となる」という批判を始めてもいます。
職域接種が広がる事で、市町村単位の接種にゆとりが生まれ、日本全体の接種がさらにスピードアップされれば良しとするという、職域接種を支援するような考え方は聞こえてきません。
筆者には、「上っ面の浅はかな公平感」が横行しているようにすら思えます。そんな“公平感”に縛られた結果、ワクチン接種の効率性が上がらず集団免疫の達成が遅れる事にもなりかねません。

今月21には厚労省から職域接種の要領が発表されるとされています。

今はワクチン接種を加速する事を最優先とし、その上で公平にも配慮するという弾力性があっても良いのではないでしょうか。

PS:筆者は生まれも育ちも横浜ですが、4月から5月にかけての横浜市のワクチン接種の段取りの悪さはひどいものでした。比べると千葉県各市のワクチン接種はスムーズだという評判を複数の知人から聞いています。ワクチン接種に限ってはハマッ子の看板が情けなく恨めしく思っています。

以    上

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鈴木雅一(すずきまさかず)

代表取締役・特定社会保険労務士ピー・エム・ピー株式会社
慶應大学経済学部を卒業(専攻は経済政策、恩師はカトカンで有名な加藤寛教授)。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社し、人事企画部門他を経験。その後、米国ケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店の副社長として銀行と証券人事部門を統括。米国マイクロソフト社の日本法人であるマイクロソフト株式会社の人事部門と総務部門の統括責任者を経て、PMPを創業。外国企業と日本企業双方に、グローバルな視点から人事労務のコンサルティング活動を行っている。